改正プロバイダ責任制限法をわかりやすく解説-ネット上の企業への誹謗中傷・風評被害はどう変わる?- | 誹謗中傷対策センター
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改正プロバイダ責任制限法をわかりやすく解説-ネット上の企業への誹謗中傷・風評被害はどう変わる?-

改正プロバイダ責任制限法をわかりやすく解説-ネット上の企業への誹謗中傷・風評被害はどう変わる?-

プロバイダ責任制限法が改正された法律が2022年10月1日に施行されましたが、 総務省はさらなる誹謗中傷などへの対応の迅速化を図るため、 2024年3月1日、プロバイダ責任制限法改正案が閣議決定しました。 今回の改正内容が、これまでの投稿の発信者情報の開示等にとどまらない内容となったため、 現行の通称「プロバイダ責任制限法」から通称「情報流通プラットフォーム対処法」と法律名も改められる予定です。 法案は今後、国会に提出されます。

本記事は2024年3月21日に最新情報にアップデートしました。

改正のポイント
大規模プラットフォーム事業者(月間アクティブユーザー数等が一定規模以上の事業者を想定)に対して、以下の措置を義務付け

削除申出への対応の迅速化

  • 誹謗中傷申出窓口・手続の整備・公表
  • 削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)
  • 削除申出に対する判断・通知(1週間程度をイメージ)

運用状況の透明化

  • 削除基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)
  • 削除した場合、発信者への通知

[出典]
自民党Webサイト「改正のポイント」
総務省動画チャンネル【2024.3.1】松本総務大臣 記者会見

ここから先は現行の改正プロバイダ責任制限法の内容とそれぞれの立場で求められる対応内容をわかりやすく解説いたします。

ざっくり理解!
  • プロバイダ責任制限法とは
  • 改正プロバイダ責任制限法のポイント
  • 新設される発信者情報開示請求(非訟手続)の流れ

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プロバイダ責任制限法とは?

プロバイダ責任制限法は2001年11月に成立し、2002年5月から施工開始となった法律です。 プロバイダ責任制限法の正式名称は随分長い名称となりますが 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)」といいます。

プロバイダ責任制限法は、インターネット上で公開されている情報による権利侵害があった場合、 下記2つの内容が規定されています。

  • プロバイダが負う損害賠償責任の免責要件を規定
  • 被害者が権利侵害情報発信者の情報開示を求める権利を規定

プロバイダは、権利を侵害する情報を放置した場合には、被害を受けた企業から損害賠償責任を求められる可能性もありますが、 権利侵害に当たらない情報を削除した場合には、発信者側から賠償責任を求められる可能性もあります。

そのため、プロバイダが情報の削除を行った場合と行わなかった場合の免責要件が規定されています。

コンテンツプロバイダが削除しなかった場合の免責要件

下記のいずれかに該当しない場合、損害賠償責任を免責されます。

  • 投稿によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき
  • 技術的に侵害情報を削除することが可能であったにもかかわらず削除しなかったとき

コンテンツプロバイダが削除した場合の免責要件

下記のいずれかに該当する場合、損害賠償責任を免責されます。

  • 他人の権利が不当に侵害されていると信じるだけの理由があるとき
  • 権利侵害にあたるか判断できない場合、発信者に削除に同意するか照会したが7日以内に反論がない

[免責]
免責とは、損害が発生しても責任を負わないことを指します。

発信者情報開示請求

発信者情報開示請求は、権利侵害を投稿した投稿者を特定するための手続きになります。

被害を受けた企業が投稿者に対し「名誉毀損」「信用毀損」「業務妨害」等の権利侵害を理由に 損害賠償請求するためには、投稿者を特定する必要があります。 改正前の規定では、発信者の特定までに2回の裁判上の手続きが必要となります。

[参考]
プロバイダ責任制限法Q&A(総務省)

改正前のプロバイダ責任制限法の問題点

発信者特定までに手間と時間と費用がかかる

改正前のプロバイダ責任制限法では、権利を侵害された投稿によって被害を受けた企業が 投稿者を特定するために「発信者情報開示請求」を行う必要がありましたが、 発信者の特定までに2回の裁判上の手続きが必要となり手間と時間と費用がかかるという問題がありました。

開示請求できる範囲の見直し

改正前のプロバイダ責任制限法は、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプの開示請求を想定したものになります。

現在主流のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の中には、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプのログは記録・保有されずに ログイン時の情報しか保有していないサービスが存在しています。 改正前のプロバイダ責任制限法では、ログイン時のIPアドレスなどの開示請求を想定したものではないため、 開示請求の対象となるかについては明確ではありませんでした。

そのため、裁判によって開示請求が通ったものもあれば、通らなかったものもありました。

改正プロバイダ責任制限法のポイント

改正前の問題点は下記2つになります。

  • 発信者の特定までに2回の裁判上の手続きが必要となり手間と時間と費用がかかる
  • SNS等のログイン型サービスではログイン時のIPアドレス情報を取得する必要がある

2022年10月1日から施行される改正プロバイダ責任制限法は上記の問題を解決し、 被害を受けている企業も救済を受けやすくなります。

改正ポイント1 被害企業による加害者の開示請求の手続きの簡易化

従来の発信者情報の開示手続きは手間と時間と費用がかかりましたが、 発信者情報の開示請求を1つの手続きで迅速に行うことができるように、 新たな裁判手続き(非訟手続)が創設されました。

非訟手続とは

非訟手続(ひしょうてつづき)は、訴訟手続に比べて手続きが簡易化されたものになります。

非訟手続は、事件の内容によって手続きが異なる部分がありますが、下記のような特徴があります。

  • 裁判所で口頭弁論という審理の方式を経ることなく、当事者と他者に書面または口頭で陳述させる方式
  • 手続きは原則として公開されない
  • 事実の認定は、裁判所の職権による調査を行うことができ、裁判も「判決」という形式ではなく「決定」という方式
  • 裁判に対する不服申立ても原則として1回の抗告が許されるのみ
  • 終了した裁判を裁判所が職権で取消又は変更することができる

新設される発信者情報開示請求(非訟手続)の流れ

[① 被害企業]
裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令、提供命令と消去禁止命令の申立てを行う

[② 裁判所]
裁判所がコンテンツプロバイダに対する提供命令を発令

[③ コンテンツプロバイダ]
コンテンツプロバイダの発信者情報からアクセスプロバイダを特定し、アクセスプロバイダに提供

[④ アクセスプロバイダ]
コンテンツプロバイダから発信者情報の提供

[⑤ 裁判所]
裁判所がアクセスプロバイダに対する消去禁止命令を発令

[⑥ 裁判所]
裁判所がコンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令を発令

[⑦ コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダ]
コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダは被害企業へ発信者情報(氏名・住所等)を提供

[⑧ 被害企業]
被害企業は発信者に対する損害賠償請求訴訟を提起

新設される発信者情報開示請求(非訟手続)の流れイメージ図

[提供命令]
コンテンツプロバイダが保有する発信者情報から特定したアクセスプロバイダの名称等を申立人に提供する制度

[消去禁止命令]
開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐための命令のこと。 アクセスプロバイダに対して保有する発信者情報の消去禁止を求めること。

[コンテンツプロバイダ]
掲示板やSNSサービスを提供する事業者のこと
例:5ちゃんねる、Twitterなど

[アクセスプロバイダ]
インターネット接続を仲介するサービス業者のこと
例:OCN、ぷららなど

改正ポイント2 SNSなどのログイン型サービスへの対応

現在主流のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は投稿時のIPアドレスやタイムスタンプのログ記録を保持せず ログイン時の情報しか保有していないサービスが多数存在しています。 改正前のプロバイダ責任制限法では、ログイン時のIPアドレスなどの開示請求は想定されていなかったため、 裁判によって開示請求できるかどうかの判断が異なることが問題でした。

近年、投稿時の IP アドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、 投稿時の IP アドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、 アクセスプロバイダにおいて特定の IP アドレスを割り当てた契約者(発信者)を特定するために 接続先 IP アドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、 現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、 発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

[出典]
総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ(案)」

改正プロバイダ責任制限法では、ログイン時情報も開示対象になりました。 これによってログイン時のIPアドレスなどから発信者を特定することができるようになります。

改正前と改正後の発信者情報開示請求の違い

下記に改正前と改正後の違いを説明いたします。

改正前
  1. コンテンツプロバイダに発信者情報開示請求書を送付
  2. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分の申立て
  3. 裁判所にアクセスプロバイダに対する発信者情報消去禁止仮処分命令申立て
  4. 裁判所にアクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の提起を行う

1. コンテンツプロバイダに発信者情報開示請求書を送付
コンテンツプロバイダに対して発信者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める請求書になります。 コンテンツプロバイダも発信者の情報を守る必要があるため「裁判所の命令がなければ開示できない」と 断られるケースがほとんどかと思います。

2. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分の申立て
そのため、「発信者情報開示請求書」と同時にコンテンツプロバイダに発信者のIPアドレスと タイムスタンプの開示を求める裁判を起こす準備が必要になります。 裁判所にコンテンツプロバイダに対する「発信者情報開示仮処分の申立て」を行います。 裁判所からコンテンツプロバイダに対して開示を命じる決定(仮処分)を出してもらう手続きになります。

3. 裁判所にアクセスプロバイダに対する発信者情報消去禁止仮処分命令申立て
コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスとタイムスタンプの情報をもとに 発信者が利用したアクセスプロバイダを特定します。 次にアクセスプロバイダにおいて発信者の特定に必要なログ情報はある一定期間を過ぎると消去されてしまうため 発信者情報開示請求の手続きが終わるまでの間、消去をストップするための手続きになります。

4. 裁判所にアクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の提起を行う
最後にプロバイダに対して投稿時に利用されたアクセスプロバイダの契約者の氏名・住所等を開示させる 手続きが「発信者情報開示請求訴訟」と呼ばれる訴訟手続になります。 この裁判の判決に基づき氏名・住所を開示されることにより発信者を特定することができます。

改正後
  1. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立て
  2. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する提供命令の申立て
  3. 裁判所にアクセスプロバイダに対する消去禁止命令の申立て
  4. 裁判所がコンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダに対して開示命令を発令

1. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立て
裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める申立てになります。

2. 裁判所にコンテンツプロバイダに対する提供命令の申立て
コンテンツプロバイダが保有する発信者情報から特定したアクセスプロバイダの名称等を申立人に提供する申立てになります。 申立人が提供命令により開示されたアクセスプロバイダに対しても発信者情報開示命令の申立てをした場合、 コンテンツプロバイダはアクセスプロバイダに対し、コンテンツプロバイダが保有する発信者情報を提供することが求められます。

3. 裁判所にアクセスプロバイダに対する消去禁止命令の申立て
アクセスプロバイダにおいて発信者の特定に必要なログ情報はある一定期間を過ぎると消去されてしまうため 発信者情報開示命令の手続きが終わるまでの間、消去をストップするための手続きになります。

4. 裁判所がコンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダに対して開示命令を発令
裁判所がコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダに対して開示命令が発令されると 申立人に発信者の氏名・住所が開示されることにより発信者を特定することができます。

改正前と改正後の違いまとめ

改正前は裁判所に「コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分の申立て」を行ってから 「アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の提起を行う」という2段階の裁判手続きが必要でした。

これはコンテンツプロバイダからIPアドレスやタイムスタンプが開示されない場合、 発信者の氏名や住所を保有するアクセスプロバイダを特定することができないため、 結果として発信者への訴訟準備を行うことができないため2段階になっています。

2段階の裁判を行う必要があるため、発信者情報を得るためには 多くの手間と時間と費用がかかり被害企業の負担が大きく、 断念しなければならないケースもありました。

改正後に新設された「発信者情報開示命令」を利用する場合、 「提供命令」と「消去禁止命令」という発令も同手続きの中で申し立てることができるようになりました。

改正前と改正後の大きな違いは、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダ両方への開示訴訟が一つの手続きで可能になる点と 同時に「提供命令」「消去禁止命令」の申し立てが出来るようになることで開示までの費用・時間の負担軽減、ログ情報の保持という点 で使い勝手がよくなります。

今回創設された「発信者情報開示命令」は開示要件の判断が難しくないケースや、 当事者同士が対立しないケースをメインに利用されることが期待されます。

プロバイダ責任制限法の改正で立場ごとに求められる対応内容

プロバイダ責任制限法改正によってそれぞれの立場でどのような対応が求められるのか 下記に説明いたします。

コンテンツプロバイダ

大きな影響を受けそうなのが、コンテンツプロバイダ(掲示板・SNS等のサービス提供者)です。 提供命令が創設されたことによって、大きな影響を及ぼす可能性が考えられます。

提供命令が発令されることにより、 コンテンツプロバイダが保有する「発信者情報からアクセスプロバイダの名称等」を特定し、 申立人に提供することが求められてきます。 また、申立人がアクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立をした場合には、 保有する発信者情報をアクセスプロバイダに提供しなければなりません。

現行のコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求仮処分では、 IPアドレス等の発信者情報を申立人に提供するだけだったものと比べると、 提供命令の対応は、現行の作業より大変になることが想定されます。

さらに提供しているサービスがログイン型サービスの場合、 侵害関連通信を特定する作業も発生します。

アクセスプロバイダ

現行の発信者情報開示請求訴訟と比較しても、 開示する内容や手続きにおいても大きな取扱いの変更はありません。

新たに創設された消去禁止命令が発令された場合には、 発信者の「氏名・住所」といった発信者情報を消去することがないよう、 今まで以上に注意して管理する必要があります。

誹謗中傷・風評被害を受ける企業

以前より選択肢が増えたという点が大きな変更点です。 今までログイン型サービスについては発信者情報の特定が難しかったものが 特定できるようになったことと、発信者情報開示請求も非訟手続によって簡素化され、 スピーディーに対応できるようになることが大きなメリットになります。

発信者情報開示請求は自社 or 弁護士に相談どちらがおすすめ?

発信者情報開示請求は自社で行うことも可能です。 プロバイダ責任制限法が改正されることで、時間的・費用的な負担は軽減されますが、 簡素化されたとはいえ、事実手間はかかります。 また、ログの保存期間が伸びるわけではないので早めの対応が必要となります。

ログが消失してしまう可能性を考えると早めに弁護士に相談することがおすすめとなります。

いきなり弁護士に相談するのは不安ということであれば、誹謗中傷対策センターにご相談ください。

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